先日の調剤室の一コマ。
SKY係長「やべーなこれ、やっちまったんじゃないか…?」
見ると、高アンモニア血症でアミノレバンの注射とかカナマイシンとかの処方と共にバルプロ酸の処方が。
これのことかな…?
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バルプロ酸の副作用で、高アンモニア血症を起こすことがあると知られています。
添付文書に色々と書かれていますので、抜粋してみましょう。
- 禁忌(次の患者には投与しないこと)
2.3 尿素サイクル異常症の患者[重篤な高アンモニア血症があらわれることがある。]
- 重要な基本的注意
8.2 高アンモニア血症を伴う意識障害があらわれることがあるので、定期的にアンモニア値を測定するなど観察を十分に行うこと。[11.1.2参照]
- 特定の背景を有する患者に関する注意
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.3 尿素サイクル異常症が疑われる患者
以下のような患者においては、本剤投与前にアミノ酸分析等の検査を考慮するとともに、本剤投与中は、アンモニア値の変動に注意し、十分な観察を行うこと。重篤な高アンモニア血症があらわれるおそれがある。[11.1.2参照]
・原因不明の脳症若しくは原因不明の昏睡の既往のある患者
・尿素サイクル異常症又は原因不明の乳児死亡の家族歴のある患者
- 副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
11.1 重大な副作用
11.1.2 高アンモニア血症を伴う意識障害(頻度不明)
[8.2、9.1.3参照]
尿素サイクル異常症は遺伝性の指定難病で、多くは乳幼児期に発症するようです。尿素サイクル(主に肝臓において、生体内で発生する有毒なアンモニアを無毒な尿素に変えていく経路)に異常があるためタンパク質制限やアミノ酸療法が必要。もしバルプロ酸の副作用でアンモニアが上昇すると重篤な高アンモニア血症になってしまうわけです。
今回の患者様は、肝硬変の増悪から高アンモニア血症になり、痙攣を誘発したと考えられる症例でした。なので、すでにある高アンモニア血症(200μg/dLちかく)が、バルプロ酸の開始に伴って助長する恐れがあるというわけです。推定される機序はコチラのサイトを参考に…。
冒頭のSKY係長は処方監査時に高アンモニア血症が見逃されていたのではないかと思いドキドキされていたのですが、実はコレ、最初に処方が出た時にアビーによってきちんと脳外医師に疑義照会がされていました。医師もご承知の上での投与だったんですね~。
医師は肝・腎が悪いからこれぐらいしかいけないんだ…明日内科医師に高アンモニア血症を診てもらうから…ということでそのままバルプロ酸を調剤したんですね(腎臓そんなに悪くなかったけども)。
その後、薬剤師記録に肝腎不全時の抗痙攣薬の提案が書かれていました。多分ガイドラインの成人てんかん薬物療法 内科疾患の合併時の選択薬は何か のページから抜粋したのかな。
肝代謝 | バルプロ酸、フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、BZ系 |
肝腎代謝 | トピラマート、ラモトリギン |
腎代謝 | ガバペンチン、レベチラセタム |
若い世代の子たちは係長が作った教材を読み込んでいてこの禁忌がバッチリ頭に入ってるけど、ママさん世代はウロ覚えでした。メロペン禁忌しか身についてなかった(^^ゞ
これを機にまたしっかり記憶しておきましょ。